イージーオーダー(MTM)とは何か

イージーオーダー(easy order)とは、顧客の採寸値をもとに、あらかじめ用意されたベースパターン(型紙)を修正・調整して仕立てるスーツの製造方式である。国際的にはMTM(Made to Measure)と呼ばれ、既製品(RTW: Ready to Wear)とビスポーク(Bespoke)の中間に位置する仕立て方法として、現代の紳士服市場で広く普及している。

「イージーオーダー」という語は日本で生まれた和製英語であり、英語圏では通じない。英語での正式名称はMade to Measure(MTM)またはMade-to-Order(MTO)である。国内では「セミオーダー」「パターンオーダー」「カスタムオーダー」など店舗によって呼称が異なるが、実質的にはいずれもMTMと同義とみなされる場合がほとんどである。

本記事では、オーダースーツ業界の実務経験をもとに、イージーオーダーの正確な定義・既製品およびビスポークとの根本的な違い・採寸の実態・カスタマイズの限界・よくある誤解を体系的に解説する。

1. 仕立て3方式における位置付け

スーツの仕立て方法は製造プロセスの違いによって3つに大別される。イージーオーダー(MTM)はその中間に位置するが、これは品質が中程度という意味ではなく、製造方式の性質が既製品とビスポークの間にあることを指す。

比較項目 既製品(RTW) イージーオーダー(MTM) ビスポーク
パターン 規格化された標準型 ベースパターンを採寸値で修正 顧客専用に一から新規作成
採寸箇所 なし(サイズを選ぶのみ) 10〜30箇所(店舗により異なる) 30〜50箇所以上(体型特性も観察)
仮縫い なし 通常なし 1〜3回(必須)
手縫い工程 機械縫製が主 一部手縫い(グレードによる) 主要工程が手縫い
デザイン選択肢 製品ラインから選択 ベース仕様の範囲でカスタマイズ ほぼ無制限
納期 即日〜1週間 3〜8週間 3〜6ヶ月以上
価格帯(ツーピース) 2万〜15万円 8万〜50万円 30万円〜数百万円
フィットの精度 標準体型には良好 既製品より高精度 最高精度

3方式の詳細な横断比較(価格・納期・耐久性・芯地構造との関係)についてはビスポーク・イージーオーダー・既製品 完全比較を参照のこと。

2. 既製品(RTW)との違い

イージーオーダーと既製品の違いは、単純に「採寸があるかないか」ではない。本質的な差異は以下の5点にある。

2.1 パターンの起点が異なる

既製品は工場が「身長170cm・胸囲90cm・ウエスト78cm(A体)」といった規格に基づいてあらかじめ縫製した完成品の中から、購入者が最も近いサイズを選ぶ行為である。イージーオーダーでは、購入者の採寸値を計測した後にその値に合わせてベースパターンを修正するため、購入者が先にいて、服が後から作られるという順序になる。

2.2 体型の特徴に対応できる

日本人の体型は標準規格からの逸脱が大きい場合が多い。「肩幅はS体だがウエストはL体」「左右の肩の高さが異なる」「腕の長さが標準より3cm長い」といったケースに既製品は対応できない。イージーオーダーは採寸値の範囲内でこれらの補正を加えることができる。

2.3 生地・デザインをゼロから選べる

既製品では在庫にある生地・色・デザインの中から選ぶしかない。イージーオーダーでは数百〜数千種の生地サンプルの中から素材・色・柄を選び、ラペルの種類・ボタン数・ポケットの形状・裏地の色などをカスタマイズできる(選択肢の範囲は店舗によって異なる)。

2.4 既製品のお直しとは根本的に違う

「既製品を購入してお直しに出す」という方法は、イージーオーダーとは本質的に異なる。お直しは完成した服の寸法を変える後処理であり、縫い代の制約・生地の限界・構造の変形リスクを伴う。イージーオーダーは製作段階から体型に合わせるため、お直しでは対応できない部位(肩のラインなど)にも対応が可能である。

2.5 パンツの仕様を独立して指定できる

既製品のスーツはジャケットとパンツが同一のサイズ規格でセットになっているため、「ジャケットはA76でぴったりだがパンツはウエストが入らない」といった問題が起きやすい。イージーオーダーではジャケットとパンツを独立して採寸するため、上下の体型差に対応できる。

3. ビスポークとの違い:パターンが分岐点

イージーオーダーとビスポークの根本的な違いはパターン(型紙)の作り方にある。この1点を理解することが、両者の違いを正確に把握する鍵である。

ベースパターンとは何か

イージーオーダーでは、テーラーまたはメーカーがベースパターン(ブロックパターン・原型とも呼ぶ)と呼ばれる「標準的な型紙の基礎」をあらかじめ持っている。このベースパターンは通常、数十〜数百種類の体型バリエーションを想定して設計されており、採寸値に基づいて該当するベースを選び、必要な修正を加えていく。例えば「胸囲92cm・ウエスト78cm・背丈43cm・肩幅43cm」という採寸結果に対して、最も近いベースパターンを選び、各部位の差分を補正するのがMTMの製作プロセスである。

ビスポークとの本質的な差

ビスポークでは、ベースパターンという概念が存在しない。カッター(パターン師)が採寸データと体型の観察結果をもとに、白紙から顧客専用のパターンを引く。既存の何かを「修正」するのではなく、顧客の身体を立体的に分析しそれを平面の型紙として表現する創造的なプロセスである。

概念 イージーオーダー(MTM) ビスポーク
パターンの出発点既存のベースパターン白紙(顧客専用)
パターン作成者工場・縫製スタッフ熟練カッター(職人個人)
体型対応の限界ベースパターンの修正可能範囲内原理的に無制限
パターンの保管標準管理(店舗依存)顧客の資産として保管
仮縫いの有無通常なし必須(1〜3回)
重要な区別:「完全採寸」「フルオーダー」という表現を使う店舗でも、仮縫いがなく・パターンを新規作成しない場合はMTMに分類される。英国テーラー協会(Savile Row Bespoke Association)の定義では、専用パターン新規作成・仮縫い・手縫い工程の3条件を満たさないものはビスポークとは認定されない。

ビスポークの詳細はビスポークスーツとは何かを参照のこと。

4. イージーオーダーの製作工程

イージーオーダーの一般的な製作フローは以下の通り。店舗・ブランドによって細部は異なる。

  1. 相談・ヒアリング(30〜60分):着用シーン・体型の悩み・希望するデザインの方向性を聞き出す。このヒアリングの質が最終的な仕上がりを左右する。
  2. 採寸(15〜30分):主要寸法の計測と体型特性の観察。次セクションで詳述する。
  3. 生地・デザインの選択(30〜60分):生地見本から素材・色・柄を選択し、ラペル・ボタン・ポケット・ベント・裏地などを指定する。
  4. 発注・製作(工場)(3〜8週間):採寸データとデザイン指定に基づき、ベースパターンを修正したのち縫製を行う。
  5. お渡し・フィッティング確認(15〜30分):完成品の試着。この段階が唯一のフィット確認機会となる。
  6. 微修正(必要に応じて1〜2週間):フィット不満がある場合、お直しを施して再納品する。
お渡し時のフィッティング確認が唯一のチャンス:仮縫いがないMTMでは、完成品を着た状態でのフィット確認がビスポークのような「製作途中での修正」ではなく「完成後のお直し」になる。この違いを理解した上で、お渡し時に各部位を丁寧に確認することが重要である。

5. 採寸では何を見ているか

イージーオーダーの採寸は「数字を測る作業」ではない。熟練した担当者は数値を計測しながら、同時に体型の特徴・姿勢のクセ・左右差・動作の傾向を観察している。ここに技術者の経験が最も色濃く反映される。

採寸で計測される各部位の名称についてはスーツ各部名称と役割を、日本のサイズ体系(A体・AB体・Y体等)との関係についてはスーツサイズの見方と選び方を参照のこと。

5.1 計測する寸法(主要項目)

部位 計測内容 活用目的
胸囲バストの最も広い部分の周囲ジャケット前幅・胸まわりの余裕量設定
ウエスト自然なウエストラインの周囲ジャケットの絞り量・パンツウエスト
ヒップ腰骨の最も張った部分の周囲ジャケット裾幅・パンツヒップ
肩幅右肩端から左肩端(前・後を分けて計測)肩縫い位置・ネックポイント幅
背丈第7頸椎から腰骨上端までジャケットの総背丈設定
総丈第7頸椎から希望の裾位置までジャケットの完成丈
袖丈肩縫い位置から手首骨(橈骨茎状突起)まで袖の長さ
二の腕まわり上腕の最も太い部分の周囲袖の太さ・動き余裕量
首回り首の付け根の周囲衿のネックライン設定
股下丈股点から希望の裾位置までパンツの股下・ブレイク設定
渡り幅股点での大腿周囲パンツの太さ設定

5.2 「数値」ではなく「体型」を読む

一流の担当者は数値の計測と並行して、以下の体型特性を目視・触診・姿勢観察によって把握する。これらは数値では表しきれない情報であり、ここに熟練技術者の経験が最も活きる部分である。

① 肩の傾斜(なで肩・いかり肩)
肩が水平に対してどれくらい傾いているか。左右で傾き角度が異なる場合(非対称肩)は、左右のパターンを個別に調整する必要がある。

② 肩の前後方向の傾き(前肩)
現代人はデスクワーク等により「前肩」(肩が前方に巻き込んでいる状態)になりがちである。前肩の体型でノーマルパターンを使うと背中が引きつる・前身頃が余るという現象が生じるため、前アームホール位置の修正が必要かどうかをここで判断する。

③ 背中の湾曲(猫背・反り腰)
背中の直線性・湾曲度によって背丈の取り方とセンターバックシームのカーブが変わる。猫背傾向の強い体型では後ろ身頃の縦のカーブを深くする補正が必要。

④ 腹部・胸部の突出具合
腹が前方に出ている体型では、ジャケット前身頃が下方に引っ張られる問題が生じる。腹部の厚みと位置を観察し、前身頃の余裕量設定に反映する。

⑤ 体の左右非対称性
人間の体は完全な左右対称ではなく、多くの人に0.5〜2cm程度の非対称がある。右利きの人は右肩が左肩より低くなりやすい。高品質なMTMでは左右のパターンを独立して処理する。

⑥ 首の前傾
首が前方に傾く(前頸型)体型では、バックネックのカーブを深く取る必要がある。この観察を怠ると後ろ衿が浮き上がるという典型的な問題が生じる。

⑦ 動作量の確認
立った状態だけでなく、腕を上げる・前かがみになるなどの動作をさせて、どの部位に引きつりが生じるかを観察する。「動きやすさ」の設計に直結する重要な工程である。

「40箇所採寸」の実態:採寸箇所の数が多いことは必ずしも品質の高さを意味しない。重要なのは「何を計測し・どう活用するか」である。基本寸法8箇所を正確に計測して体型特性を正しく読む技術者の方が、40箇所を計測してもベースパターンへの反映が不十分な技術者より優れた仕上がりをもたらす場合がある。採寸箇所数はマーケティング上の指標であって、技術の指標ではないことを認識しておく必要がある。

6. カスタマイズできる項目・できない項目

イージーオーダーで「何でも好きなように作れる」という誤解は多い。実際にはベースパターンの構造的な制約があり、変更できる範囲と変更できない範囲がある。

変更できる項目(一般的なMTMで対応可能)

  • 寸法の調整:胸囲・ウエスト・ヒップ・袖丈・総丈・肩幅などの基本寸法(ベースパターンの修正範囲内)
  • デザイン仕様:ラペルの種類・ボタン数・ポケット形状・ベント・袖ボタン数など
  • 素材選択:店舗が用意する生地サンプルの中から選択
  • 裏地・副資材:裏地の色・ボタンの素材・糸の色など
  • パンツ仕様:プリーツ有無・裾処理・ウエスト仕様など

変更に限界がある項目(体型の特殊性による)

  • 肩幅の極端な差異(3cm以上):ベースパターンの肩幅修正には限界があり、極端な場合はビスポークでないと対応が難しい
  • 左右非対称が大きい場合(2cm以上):左右独立パターンを引けないMTMでは完全対応が困難
  • 特殊な体型(極端な猫背・腹部突出など):ベースパターンの補正範囲を超える体型特性はMTMでは吸収しきれない

変更できない項目(MTMの構造的制約)

  • 仮縫いの実施:通常のMTMには仮縫い工程がない
  • パターンの新規作成:ベースパターンを使う限り、ビスポークと同等の「一から作る」対応はできない
  • 手縫いの工程数:ハイエンドMTMでも機械縫製が基本。ビスポーク水準の手縫い比率はMTMでは実現しない

芯地の種類とその品質への影響についてはフルキャンバス・ハーフキャンバス・接着芯の違いを参照のこと。

7. どんな人に向いているか

イージーオーダーが向いている人

① 既製品でフィットに困難を感じている:「肩幅は合うがウエストが余りすぎる」「腕が長くて袖が短い」「左右の肩の高さが違う」といった体型特性がある場合、既製品では慢性的なフィット不満が残る。MTMはこれらを解消できる。

② 予算10万円以上を確保できる:5〜8万円以下のMTMサービスは実態として既製品に近い処理をしていることが多い。本来の意味でのMTMの品質を得るためには最低でも10万円程度の予算が必要。

③ 3〜5年以上の長期使用を想定している:MTMは体型に合ったパターンで製作されるため、適切なケアによって長年使い続けられる。高頻度着用・長期保有を前提とする場合、1着あたりのコストパフォーマンスが向上する。

④ 生地・デザインへのこだわりがある:既製品では選べない生地(イタリア・ビエッラの高品質ウールなど)や、自分の好みのデザイン仕様を実現したい場合にMTMが最適。

⑤ ビスポークの納期・価格が現時点では難しい:本来はビスポークが最良だが、3〜6ヶ月の納期や30万円以上の予算が合わない場合の現実的な代替手段としてMTMが機能する。

イージーオーダーが向いていない人

状況推奨する方法理由
2週間以内に急ぎで必要既製品MTMの納期(3〜8週間)に間に合わない
予算が5万円以下既製品コストパフォーマンスとして既製品の方が有利な場合が多い
左右差3cm以上・特殊体型ビスポークMTMの補正範囲を超えるため、パターン新規作成が必要
はじめてのスーツで好みが不明既製品から始める着こなし経験を積んでからMTMを活かしやすい

8. イージーオーダーの品質の幅

「イージーオーダー」という名称でも、サービスの内容・品質は店舗によって大きく異なる。価格帯を目安に以下のような違いがある。

グレード 価格帯 採寸 芯地 担当者 実態
エントリー 8〜15万円 10〜15箇所 接着芯が主 店舗スタッフ 既製品の体型補正版に近い
スタンダード 15〜35万円 20〜30箇所 ハーフキャンバス以上 テーラリング知識を持つスタッフ 本来の意味でのMTMに最も近い
ハイエンド 35万円〜 30〜50箇所(体型観察含む) フルキャンバスが標準 熟練テーラーまたはカッター ビスポークとの境界線に近い最高水準
価格で判断する際の注意:同じ価格帯でも、担当者の技術力・ベースパターンの精度・使用生地の品質によって仕上がりは大きく異なる。試着時のフィット確認の丁寧さ・体型観察の質・質問への回答の的確さを確認することで技術水準を判断することを推奨する。

9. よくある誤解5選

誤解①「イージーオーダー=ビスポーク(フルオーダー)と同じ」

実際:パターンの新規作成・仮縫い・主要工程の手縫いの3条件を満たさない限りビスポークではない。「フルオーダー」と表記する店舗でも、仮縫いなし・ベースパターン修正のみであればMTMである。名称ではなく製造プロセスを確認することが重要

誤解②「採寸してもらえば完璧に合う」

実際:MTMはベースパターンの修正範囲内での対応が限界。体型の特殊性が修正可能範囲を超える場合、または担当者の技術が不十分な場合、採寸があってもフィットが不十分な仕上がりになることがある。完成品お渡し時のフィッティング確認と微修正対応の可否を事前に確認することが重要。

誤解③「採寸箇所が多いほど良い」

実際:採寸箇所数は品質の指標ではない。重要なのは測った数値を正確にパターン修正に反映できる技術・体型特性を正しく観察する眼力・そのデータを工場に適切に指示する知識である。「40箇所採寸」は主にマーケティング上の訴求であり、技術の保証にはならない。

誤解④「デザインは何でも自由に決められる」

実際:カスタマイズの自由度は店舗のシステムに依存する。「ゴージラインを高くしたい」「ラペル幅を3cmにしたい」といった細かい仕様変更が可能かどうかは、店舗のパターンと工場の対応能力によって異なる。注文前に必ず希望項目の実現可否を確認することを推奨する。

誤解⑤「既製品より必ず良いものができる」

実際:エントリーMTMと高品質既製品を比較した場合、必ずしもMTMが優れているとは言えない。イタリアの有力ブランドが高級生地・フルキャンバスで製作した既製品の方が、安価なMTMより品質が高い場合もある。金額と方式だけで判断するのではなく、具体的な生地・芯地・縫製の質を評価することが重要である。

10. 費用と納期の目安

グレード スーツ本体(ツーピース) 標準納期 繁忙期(春・秋)
エントリー8〜15万円2〜4週間4〜6週間
スタンダード15〜35万円3〜6週間6〜10週間
プレミアム以上35万円〜4〜8週間8〜12週間以上
入社式・式典など期限がある場合は必ず余裕を持って注文する。完成後に微修正が発生した場合、さらに1〜2週間かかることがある。遅くとも着用日の2〜3ヶ月前には注文を入れるのが安全である。

11. よくある質問(FAQ)

Q1. イージーオーダーとセミオーダーは同じですか?

日本国内では「イージーオーダー」「セミオーダー」「パターンオーダー」「カスタムオーダー」はほぼ同義として使われることがほとんどである。いずれも「ベースパターンを採寸値で修正して製作する」方式を指し、国際的なMTM(Made to Measure)に相当する。ただし店舗によって採寸精度・カスタマイズの自由度・使用生地の品質に大きな差があるため、名称よりも具体的なサービス内容を確認することが重要。

Q2. イージーオーダーで仮縫いはありますか?

通常のイージーオーダー(MTM)には仮縫い工程はない。完成品をお渡し時に初めて着用して確認し、フィット不満がある場合は微修正(お直し)を行う流れが標準的である。仮縫いがあるのはビスポークの特権であり、これがMTMとビスポークの最も大きな体験上の違いのひとつである。詳細はビスポークスーツとは何かを参照。

Q3. 左右の肩の高さが違います。イージーオーダーで対応できますか?

左右差が0.5〜1cm程度であれば、多くのスタンダード〜ハイエンドMTMで対応可能である。1.5〜2cm以上の差がある場合は、ベースパターンを左右独立で扱える技術者がいる店舗でないと対応が難しく、ビスポークが推奨される。初回相談時に担当者に体型の特徴を正直に伝え、対応可否を確認することを推奨する。

Q4. 体重が変わったらどうなりますか?

5kg程度の変化であれば、お直しで対応できる場合が多い。ウエスト出し入れ・ヒップの調整などは比較的簡単なお直しで対応できる。ただし10kg以上の大きな体重変化では、パターン全体の比率が変わるため既存スーツの修正には限界がある。長期的に体型変化が見込まれる場合は、やや余裕を持った設計を担当者と相談するのも一案である。

Q5. 「フルオーダー」と「イージーオーダー」はどう違いますか?

日本の業界では「フルオーダー」という用語の使い方が統一されていない。「完全採寸によるオーダー全般」として使う場合と、「仮縫いのある手縫いビスポーク」の意味で使う場合の両方が存在する。国際的な基準では、専用パターン新規作成・仮縫い・主要工程の手縫いが揃ったものだけがビスポーク(フルオーダー)と定義される。店舗で「フルオーダー」という言葉を聞いた際は、「仮縫いはありますか?」「パターンは新規作成ですか?」と確認することを推奨する。

Q6. 採寸箇所が多いほどイージーオーダーの品質は高いですか?

採寸箇所数は品質の指標ではない。重要なのは、測った数値を正確にパターン修正に反映できる技術・体型特性を正しく観察する眼力・そのデータを工場に適切に指示する知識である。基本寸法8箇所を正確に計測して体型を正しく読む技術者の方が、40箇所を計測してもベースパターンへの反映が不十分な技術者より優れた仕上がりをもたらす場合がある。

Q7. イージーオーダーの納期はどれくらいですか?

一般的には注文から完成まで3〜8週間。国内縫製か海外縫製か・繁忙期かどうかによって変動する。春(2〜4月)と秋(9〜10月)は繁忙期で納期が延びやすい。入社式・結婚式など着用期日が決まっている場合は着用日の2〜3ヶ月前を目安に注文するのが安全である。

Q8. 初めてのスーツにイージーオーダーは向いていますか?

体型に特徴がある場合や予算10万円以上を確保できる場合は、初めてからイージーオーダーを選ぶ価値がある。一方、まずスーツとはどんなものかを体験したい・着こなしの好みがまだわからない・急ぎで必要という場合は、最初は既製品を購入して経験を積んでからMTMを活用する方が合理的な場合もある。初めてのスーツ購入全体については初めてのスーツ購入完全ガイドを参照のこと。

12. 関連項目

13. 参考文献

  1. 日本テーラリング協会. 『テーラリング技術概論』. 2018年.
  2. Savile Row Bespoke Association. Definition and Standards of Bespoke Tailoring. London, 2019.
  3. Flusser, Alan. Dressing the Man: Mastering the Art of Permanent Fashion. HarperCollins, 2002.
  4. 日本縫製技術協会. 『スーツ構造入門』. 2019年.
  5. International Wool Textile Organisation (IWTO). Wool in Tailoring: Technical Guidelines. Brussels, 2022.
最終更新:この記事を編集更新履歴 カテゴリ:仕立て方法
この記事の著者
テーラリング専門ライター・パターンメーカー

文化服装学院卒業後、老舗テーラーにてパターン裁断を15年経験。イージーオーダー・ビスポーク両方の現場で数千着の採寸・製作に携わる。現在はスーツペディアの仕立て・フィット担当エディターとして、業界の実務知識を体系化した記事を執筆。日本テーラリング協会会員。